気付いた時には、口にしていた。
「……コウ。沙弥には好きな人がいるんだって」
コウの目が見開かれる。
あたしの好きな薄茶の瞳が、あたしを映した。
ようやくこっちを見てくれた。
なのにどうして、こんなにつらいんだろ。
「沙弥に、好きな奴が……?」
「うん。相手が誰かは、沙弥に聞いて。あたしからは言えない」
「宗介じゃなくて?」
「ちがうよ。もうずっと、沙弥はその人のことが好きだったんだって」
コウの顔に、精気が戻ってくる。
それがうれしいのに、悲しい。
「ってゆーか、沙弥が小津くんみたいな性格の悪い男を好きになるはずないんだよ。小津くんてすっごく腹黒いよね!」
目を丸くしたあと、コウは思い切り吹き出した。
ああ、笑ってる。
コウが笑ってる。
きっと沙弥も喜ぶね。


