連れてこられたのは、いつかの海岸線。
あの時よりも高い海の波が、テトラポットにぶつかってしぶきを上げる。
強い潮の香り。
いつの間にか、くさいなんて思わなくなっていた。
コウは立ち止まらない。
手はとっくに放されて、あたしのかなり前を歩いてる。
どこまで行く気?
なんであたしを連れだしたの?
「ねえ、コウ」
返事がない。
目の前の背中は立ち止まらない。
「コウってば」
銀色の自転車を押して歩く後ろ姿は、あたしの存在なんて忘れてしまったみたい。
なんか腹立つ。
コウが無理やり引っ張ってきたくせに。
小走りで駆け寄って、白いTシャツのすそをぐいっと引いた。
ようやく、コウが立ち止まる。


