「樹は、治療されてしまってもいいのか? 俺はそれが全てだとは思わない。今が安定しているなら、それでいいだろう」


 ブランコを揺らす足が地面に着く。

 砂利が靴底で音を立てて、動きが止まった。


「――――二度と、朱音と会えなくても?」


 笑みは消えていた。

 青年は頭を抱えるように俯き、絞り出すように声を発する。


「蛍ちゃんが自殺するよりはマシだ」


 血が滲むようなその声に、人影は再び笑みを浮かべた。


「蛍以外が、自殺するかもしれないけどね」


 うつむく青年の体が震える。


「もし、そんなことになったら……アイツを殺してやる!」


 憎しみの矛先は、墓場で言葉を交わしたあの男へと向かう。

 握りしめられた拳が向かう先も、今ここにはいない男。

 蛍を引き取った、あの男――