少女狂妄

「ねぇ、朱音ちゃん元気にしてる?」


 何でも無いような風に、幼い唇から紡がれた名前。

 その名前を聞いたとたん、雷に撃たれたような衝撃がした。


「アカ、ネ……?」

「そう、朱音ちゃん」


 無邪気な笑顔が、急に薄ら寒い物に感じられた。

 朱音。

 私はこの女の子だけじゃなくて、そんな名前の子も知らない。

 なのにどうして、こんなにも動揺しているの?


「どうかした?」


 震える私の顔を、女の子が心配そうに覗き込んでくる。

 叫び出したいような気持を必死で堪えて、吐き気に涙が出た。

 樹に再会したときよりももっと、怖い。


「蛍ちゃん!」


 闇に閉ざされていくような心地に、突然光が差した気がした。

 男の人の声が、私の名前を呼んだ。

 おじさんじゃない、もっと若いこの声は……


「日向さん」