少女狂妄

「入り込んでるな」


 傷の手当てよりも大変だったのは、右手の爪に入り込んだ汚れだった。

 濡らしたタオルで一本一本掃除してくれる。

 これっくらい自分でやるのにと思っても、口には出さない。

 どうしてここまで私に尽くしてくれるんだろう。

 そう思うと嬉しくて、笑みが浮かぶ。

 なのに、おじさんの後ろに立つ人物に気がついてガク然とした。


「この男が信頼に足る人物だと、本当に思っているのかい?」


 嘲りを浮かべ続ける、樹。


「いやっ」


 おじさんの手を振り払い、ソファーの背に体を押しつける。


「どうして考えないようにする? こんな不審な男」


 おじさんの肩に、樹の手が乗る。


「やめてぇっ!」


 膝を胸に寄せて、ソファーの上で丸くなる。

 耳を強く塞いで、目を硬く閉ざして、樹を拒絶する。