少女狂妄

「久しぶりだね、蛍」


 シンクを挟んだ対岸に、樹は立っていた。

 くしゃくしゃの黒髪。

 首から垂れ下がった黒のロングマフラー。

 黒いコートに黒のデニム。

 全身黒づくめの樹は、私を見てチェシャ猫のように笑う。

 私が飛びのいたのを見て、樹も自ら手を引き抜いた。

 水面はわずかも乱れず、樹の手も濡れていない。

 幽霊みたいに透けているわけでも、足がないわけでもない。

 確かにそこに存在感を持って立っているのに、樹はここに存在するはずのない人間だった。

 樹を最後に見たのは半年前、おじさんと出会ったころ。

 最初に樹と出会ったのは一年前、あの事件の直後だった。

 私は樹から目が離せないでいた。

 震えが止まらないのに、瞼は固まったように動かない。

 瞬きさえ出来ずに、私は樹を見つめていた。