少女狂妄

 もしかしてって思うけど、期待はしない。

 でも、こんな風にマフラーまで貸してくれる日向さんだから期待もしちゃう。

 罪作りな男ってやつ?


「お待たせ」


 しばらくして戻って来た日向さんの手には、ホットコーヒーとホットココアの缶があった。


「はい、あげる」


 そう告げる日向さんの吐く息が、さっきよりも白く見えた気がした。


「ありがとうございます」


 差し出されたココアに手を伸ばす。

 腕を持ち上げたことで袖が下がり、肌があらわになる。

 さっき母につかまれたのと同じ手だった。

 さっき、私が爪を立てた――


「……!」


 ココアを受け取る前に、慌てて手を引っ込める。

 行き場を失った缶が、地面を転がった。

 赤くなった傷を押さえて隠す。

 日向さんは、目を丸くして私を見ていた。