「いただきます」

「いただきます」


 おじさんが用意した朝食をダイニングテーブルに並べて、向かい合わせに座る。

 おじさんと暮らし始めて、三ヶ月が経った。

 家族を亡くして行くあてのなかった私を引き取ってくれたおじさん。

 私は、彼のことをなにも知らなかった。

 血縁があるわけでも面識があったわけでもない。

 どういう経緯で私を引き取るに至ったかも、なにも知らない。

 それどころか、私はおじさんの本名さえしらなかった。

 それでも、私は彼を『おじさん』と呼び慕っていた。

 だから、近所の人たちはきっと私とおじさんの関係を姪と叔父だと思っている。

 そういう思惑もあって、おじさんは私にそう呼ぶように言ったんだと思う。


「蛍、食べないのか?」

「ううん、食べるよ」


 ぼんやりとしていた私を不思議に思ったおじさんが首を傾げて、私はようやくフォークを手にした。 目玉焼の目玉にフォークを突き刺すと、涙を流すように黄身が溢れた。

 私はそれを白身に絡めながら食べる。

 向かいに座るおじさんはバターと苺ジャムをぬったトーストを食べている。

 おじさんは、不思議な人だった。

 小柄な私と違って、すらりとしている。

 百八十センチぐらいあるんじゃないのかな。

 黒い髪や顔立ちは私と同じ日本人なのに、体型や瞳の色は日本人離れしていた。

 おじさんの目は、少し蒼みがかっている。

 ぱっと見は黒いのに、光の加減で深い紺色のような綺麗な光彩を放つ。

 カラーコンタクトレンズでは出せないその美しい色に、私は今も見とれてしまう。

 私に見られていることに気がついたおじさんが、私に笑いかける。

 私は顔が熱くなるのを感じて、目を逸らした。