少女狂妄

 上着も羽織らずに、服のポケットには財布も入っていない。

 どこかで暖を取ろうにも、住宅街にはコンビニもなにもない。

 師走の風が頬を刺して、上がった息を整えるために入ったのは公園だった。


「こんにちは、蛍ちゃん」

「日向さん……こんにちは」


 公園のベンチには、青年がいた。

 ブレザーの上から紺のピーコートを羽織って、マフラーを巻いた高校生。

 学校へ行かなくなった私が、家族以外で唯一言葉を交わす相手。

 西村日向(にしむらひなた)さん。


「お勉強ですか?」

「うん、期末試験だから」


 日向さんは、ベンチで単語帳をめくっていた。


「蛍ちゃん、そんな格好で寒くない?」

「大丈夫です、子どもは風の子ですから!」

「三つしか違わないじゃん」


 苦笑する日向さんの隣に腰掛けると、マフラーをストールみたいに広げて掛けてくれた。


「えっ、大丈夫ですよ」


 悪いと思ってマフラーを返そうとすると、その手をそっと押さえられる。


「俺が見てて寒いから。嫌じゃなければ、羽織ってて」


 そう言ってほほ笑む日向さんは、憧れのお兄さんって感じ。