苦痛を覚悟して閉じていた日向さんの目が、ゆっくり開かれる。
 不思議そうにしていた。
 ――痛くないから。

 私はずっと目を開けていたから、全部見ていた。

 女の子に背を向けて私を庇った日向さん。
 その日向さんを背中に庇ったおじさん。

 女の子が手にしたナイフは、おじさんのお腹に吸い込まれていた。

「やめろ、抜くな――」

 おじさんの声が苦しげに言って女の子の手をつかむけど、弱々しいその手に力はもう入ってなかった。

 おじさんのお腹からナイフが抜ける。
 噴水みたいに、血が噴き出した。

「あ、あ、ああああああああああ!!」

 ナイフを落とした女の子は壊れたおもちゃみたいに悲鳴を上げ続けて、おじさんの体はゆっくりと崩れた。

 日向さんに抱きしめられたまま、私はそれを見ているしかできなかった。


 ――おじさんは、死んだ。