「うあああああああああ!」

 女の子の口が大きく開いて、管楽器のように音を奏でる。

 ナイフを構えた女の子が私に突進してくる。

 たまたま私が一番近くにいた。
 たまたま近くにナイフが落ちていた。
 それだけの悲劇。

 私は身動きが取れずに、ぼんやりとそれを見ているだけだった。

「蛍ちゃん!」

 日向さんが、朱音じゃなくて私の名前を呼んだ。
 さっきまで樹だったのに、他にも人格はたくさんあるのに、どうして私ってわかるんだろう。

 日向さんに抱きしめられて、庇われる。

 ナイフを持った女の子と体がぶつかる音がする。