少女狂妄

「救急車っ……」


 日向さんの上から退いて、救急車を呼びに行こうとする。

 けれど、服がなにかに引っ掛かってつんのめる。

 日向さんが、私の服をつかんでいた。


「日向さん!」


 放してと言おうとする私に、黙るよう日向さんが唇に指を当てる。

 ふわりと触れた指先が唇から動いて、クローゼットを指さす。

 そこには、あの衣装ケースがあった。


「……たすけて」


 かすかに、声が聞こえた気がした。

 あの衣装ケースの中から、かすかに助けを求める声がする。


「だれ、か……」


 今度は、誰にも止められなかった。

 私は衣装ケースに飛びつくと、ナイフを床に置いてガムテープを外しにかかる。

 剥がれたガムテープが手に貼りついて作業を邪魔する。

 それでも少しでも早く、まだ取り返しがつくうちにと急ぐ。