少女狂妄

 私のためなんかじゃない。

 守りたいなんて詭弁だ。この人は、ただ……


「だから、おじさんも?」


 私の問いかけに、日向さんはただ微笑みを返すだけだった。


「母さんが、死んだよ。今度こそ、死んだよ」


 日向さんの腕の拘束から抜けて、私は壁に背中を押しつけてめいいっぱいの距離を取る。


「俺たちが帰った後、病室の窓から飛び降りたって」


 日向さんは、微笑んだままだった。

 子犬のように無邪気に、瞳を輝かせる。


「だからさ……朱音。やり直そうよ」


 私の恐怖も涙も、まるで目に入っていない。

 あの優しい日向さんも決して嘘ではないはずなのに、どうしてここまで歪んでしまったんだろう。

 理由は明白だった。

 朱音が心を引き裂いて私たちが生まれたみたいに、日向さんは心を歪ませて生きながらえてきた。

 でも、もう限界なんだ。


「今度は、ちゃんとした家族として生まれ直そう」


 血に染まった日向さんが、満面の笑みを浮かべる。