少女狂妄

「怯えないでよ、朱音」


 目の前までやってきた日向さんの手が、私に伸びる。

 ナイフを持っていない手にまで、血がついていた。

 そっと私の目の包帯に触れた手は震えていて、青い目は悲しみを帯びてるように見えた。

 公園や病院で会った日向さんとなんにも変わらない。

 血とナイフさえなければ、私の好きな日向さんのままだった。


「ずっと、俺が守って来たのに……」


 私の頭を抱きかかえるように、日向さんが私を引き寄せる。

 日向さんの浴びた返り血が、私にもつくのを感じた。

 日向さんの胸に顔をうずめながら、私は目が熱くなるのを感じた。


「私は……朱音じゃない」


 日向さんの腕の中で、涙と震えが止まらない。


「うん、知ってるよ」


 耳に日向さんの吐息がふれる。

 日向さんの声は、あくまで優しかった。