少女狂妄

「なん、で……どして……」


 今までなんども自分に刃を向けてきた。

 でも、刃を持った人と対峙したことなんてない。

自分の血で自分の手が血まみれになったことはある。

 でも、誰かの血で手を真っ赤に染めた人に出会ったことなんてない。

 日向さんの黒い髪。

 日向さんの蒼い目。

 日向さんの白いシャツ。

 誰かの赤い血――おじさんの?


「だって、アイツがいけないだろ。せっかく、蛍ちゃんで安定していたのに……こんな怪我までさせて」


 日向さんが、ゆっくりと私に近づいてくる。

 ナイフを握った手をだらりと下げて、目の蒼がやけに際立っている。

 逃げようにも後ろは壁で、唯一の出入り口は日向さんの後ろにあった。

 足がすくんで動けない。

 足だけじゃない。

 瞬き一つするにも恐怖が先立つ。

 少しでも身じろげば、なにがされるんじゃないかって。