少女狂妄

 普通よりも少し大きな衣装ケースは、丸まれば私も入れてしまうんじゃないだろうか。


「ね」


 言った通りでしょ、と言いたげな樹の声が一瞬聞こえた気がした。


「ダメだよ、蛍ちゃん」


 でも、次に聞こえたのは樹の声じゃなかった。


「日向さん……!」


 衣装ケースに伸ばしかけた手を、体に引き戻す。

 体を守るように胸の前で手を握る。

 日向さんの目が、じっと私を見ていた。

 瞬きさえしないで、私を捕らえて離さない。

 日向さんから距離を取ろうとしても、背中はすぐに壁にぶち当たる。

 歯の根が噛み合わず、カチカチと音がする。

 震えが止まらない。

 日向さんは返り血を浴びていた。

 真っ白いシャツが血飛沫を浴びて斑な模様を描いている。

 扉を押さえる日向さんの手には、血がべっとりとついたナイフが握られていた。

 樹が言ったことは、本当だった。