少女狂妄

 日向さんの紺色のコートが、今日はやけに黒く見えた。

 コートに触れた手が、かさつく。

 赤い粉がつく。

 私はコートから離れて、机の引き出しを漁りだす。

 趣味の悪いことをしていると思う。

 でも、確かめずにはいられなかった。

 引き出しから、血のついた包丁でも出てきたらどうしようと、手が震える。

 だけど、出てきたのはアルバムぐらいだった。

 引き出しの一番下に仕舞われていたそれに、私の妄想じゃない本当の私たちの姿があるんだろうか。

 私はそれを開かずに、そのまま元の位置に戻した。

 それを見るのは、血まみれの包丁を見つけ出すよりも勇気がいるかもしれない。


「なにも、ない」


 机のなかには、ほとんど勉強道具しか入っていなかった。

 えっちな本の一冊さえない。