「殺したからだよ」


 私の隣で、樹が答える。

 その言葉にも、心は動じない。

 どうしてだろう。

 事故でもなんでもなく、猫は誰かに傷つけられて血を流したんだと予感していた。


「誰が?」

「君が」

「私が?」

「そう。僕たちが」


 それさえも、私は予感していた。

 だって、あのマフラーは私の部屋にあったんだから。

 私が自分を傷つけるように、唯という人格が自殺未遂をしたように、私の知らない誰かがこの手で猫を殺している。


「この手で?」

「その手で」


 自分の手を見下ろす。

 色の白い小さな手が、鏡を握り締めている。

 この手で、この顔で、私じゃない私があの三毛猫を……

 私の記憶になくても、この手は猫を殺した感触を覚えているんだろうか。

 鏡を持つ手が、血まみれに見えた。