少女狂妄

「病院に入る以前、あの事件以前の君の怪我。実際に自分でつけたものもあるけど……大半が母親につけられた傷だよ」


 どうして私は学校に行かなくなった?

 どうして私は自分で自分を傷つけるようになった?

 欠落した記憶が、それが現実ではなかったことを証明しているみたい。


「虐待なんてされてない。全部自分でつけた傷だ。そう思い込むための自傷」


 鏡を持つ手に力が入る。

 鏡の持ち手が軋む。

 私が見ていた世界。

 聞いていた世界。

 感じていた世界。

 信じていたのに、全部が私の狂った妄想だったの?

 なにが現実で幻だったのか、なにを信じればいいのかわからない。


「血――」


 片目を覆われた世界は立体感に乏しく、まるで絵画のなかに迷い込んでしまったみたい。


「あの血は、なに?」