じっと、引き出しを見つめる。

 なんの変哲もない、ただの引き出しだ。

 でも、私はふらりとベッドから立ち上がる。

 まるで引き寄せられるみたいに、その引き出しと樹に近づく。


「面白いものが入ってるから」


 私が近づいても、樹は私が座っていたベッドの方を見たままだった。

 私になんか興味がないみたい。

 樹の隣に立って、引き出しに手を掛ける。

 木目調の引き出しは触れるとひんやり冷たくて、背筋が震えた。

 引き出しをつかんだまま手を引くと、なめらかな動きで引き出しが開いた。

 引き出しの中には、手鏡があった。

 鏡の面を伏せて置かれた、何の変哲もない手鏡。

 広い引き出しの中には、それ一つしか入っていない。

 樹が言う面白いものって、この鏡なんだろうか。