少女狂妄

「人の心とは、摩訶不思議だ」


 他の人格から見たら、幽霊なのは私の方かもしれない。

 勝手に体を動かして、勝手に体を傷つける悪霊だ。


「連続した記憶と体験が人を作るなら、僕らはその連続性を失くしてしまった。連続性を失った記憶と体験は、それぞれ分断されたままに人を作る。だから、時鳥朱音のなかには、何人もの時鳥朱音がいる。それぞれの名前を持ち、それぞれの同一性を持つ人間が」


 我思う、故に我あり。


「コギト・エルゴ・スム――デカルトだね」


 なにもわからない。

 なにも信じられない。

 何が嘘で本当なのかわからない。

 でも……

 この世のなにを疑っても、その疑いを持つ自分の存在だけは決して疑えない。

 私は幽霊じゃない。

 ちゃんと、ここにいる。

 きっと樹も、私の知らない他のみんなも。

 私は私だ。