少女狂妄

 お墓参りに行った、墓石に刻まれた名前。

 お母さんの旧姓は、西村だった。

 お母さんが死んでいるとしても、どうして時鳥じゃなくて西村のお墓に入っているの?

 生きているお母さんの名前も、私の記憶にあるお母さんの名前も、時鳥美緒なのに。

 わからない。

 なんにもわからない。

 全部、悪い夢だったんじゃないかって思えてくる。

 私も、全部。

 記憶が錯綜して、混乱する。

 どうして今まで何も疑問に思ってこなかったんだろう。


「大きな記憶が抜けているのも当然だよ。蛍が主人格になったのはここ一年ぐらいの話しだし、以前はもっと別の人格が出張っていたからね。そもそも、それ以前は蛍という人格さえ存在していなかったのかも」


 樹もどうしてこんなに嗤っていられるんだろう。

 私は震えながら、それでも耳は塞げないというのに。