少女狂妄

「もっと、大きな記憶もないの」


 思い返せば返すほど、恐ろしい事実に気づいてしまう。

 私は、ここ一年間の記憶しか持っていない。

 あの日、私は家族を殺されて天涯孤独になった。

 だからおじさんに引き取られたはずなのに、家族の記憶はお母さんしかない。

 父親はいたのかいなかったのか、お母さんはシングルマザーだったのか、それさえ覚えていない。

 そもそも、お母さんの死体を見た記憶があるのにお母さんは生きていた。

 生きているはずのない姿だったのに、生きていた。

 それに、日向さん。

 私が朱音なら日向さんはなんなの?

 朱音は自分の妹だって日向さんは言っていた。

 私がその朱音なら、日向さんは私のお兄ちゃんのはずなのに、私は未だに日向さんがお兄ちゃんだなんて信じられない。

 日向さんが嘘をついた?

 だって私の苗字は時鳥なのに、日向さんの名字は西村だ。

 でも。

 と、ある光景を思い出す。