「日向」


 青年は、いつの間にか少女の手を握り締めて俯いていた。

 日向と青年を呼んだのは、少女だった。

 少女に呼びかけられて我に返った青年は、傷だらけの少女を伺う。

 茫然と涙を流していた少女は、もう泣いてはいなかった。

 頬を流れた涙の跡はそのままで、血が滲んだ包帯も乾いていない。

 それでも、青年を見る少女の眼差しはさっきとは雲泥の差だった。

 はっきりとした意思が宿っているだけでなく、どこか人を嘲るように笑んでいるように見えた。


「樹、か……?」


 その眼差しに、青年は先ほどとは違う名で少女を呼ぶ。

 そう呼ばれて、少女はますます嗤ったような気がする。

 朱音から樹と呼び名を変えた少女は、青年の腕をつかんだ。

 そしてそのまま立ち上がると、青年を連れて病室を出て行ってしまった。