「じゃあ、裕二くんだけでももっとマメに来てよ」

「そうですね……」


 しおらしい男に、女はぶんぶんと首を横に振る。


「ごめん、今のナシ! 単位大切だもんね。私のせいで裕二くんが留年しちゃったら、悔やんでも悔やみきれないもん」

「卒業式に、籍を入れるんですよね」

「そう。それで私も西村美緒から、時鳥美緒になるの。裕二くんの家族になるのよ」


 病室に掲げられた名前と、女が語る現状との齟齬。

 未だに、少女と青年の存在に気付かない女。


「それまでに、私も退院できるように頑張らないとね!」


 明るい笑顔が、女をより病んだ存在にする。

 女はなぜ自分がここにいるのかさえ正しく理解していない。

 女が入院するこの病棟は、精神科の開放病棟だった。