少女狂妄

 青年はコートも脱がずにサイドボードに近づくと、しおれた花をつかんでゴミ箱に投げ捨てる。

 青年がすぐ目の前を横切ったというのに、女は窓の外を見つめたまま微動だにしない。

 青年も女を気にすることなく花瓶を持ち上げると、代わりに花束をそこに置いた。

 すると、ようやく女が反応する。


「あら、いつの間に……誰が持ってきてくれたのかしら?」


 女は首を傾げ、花を置いて今も目の前にいる青年の存在を無視する。

 女の視界の中に、青年は確実に入っている。

 それでも、女の目には映っていない。


「ホント、そっくり」


 悪態をつくように、青年がつぶやいても女には聞こえない。

 青年も慣れた様子で女の異様な言動を無視すると、水を入れ替えるために花瓶を抱えて病室を出た。