「朱音、どうしてここに……」


 後ろから聞こえたのは、日向さんの声だった。

 何度も耳にした、朱音という名前。

 振り返って見上げた日向さんは、私を見ていた。

 私を見て、朱音と呼んでいた。

 日向さんの妹の名前を、どうして私に向かって?


「その怪我……!」


 日向さんは抱えていた花瓶を床に置いて、私の隣にひざまずく。

 頭部に巻かれた真っ白い包帯に触れる日向さんの手は、かわいそうになるぐらい震えていた。

 私の頬に触れて、痛々しく包帯で覆われた私の目を見る。

 私は、私の目を見る日向さんの目を見ていた。

 今までずっと気付かなかった。

 樹に言われるまで、こうまじまじ見ようだなんて思わなかった。

 私は日向さんの目を真っ直ぐに見つめて、何も言えなくなる。