少女狂妄

「どうだった?」

「綺麗だった。凄く」


 思い出すだけで胸が熱くなる。

 今までぼんやりとしか見てこなくて、すごく勿体ないことをした。

 カラコンなんかじゃない、カラコンなんかじゃ出せない、深い奥行きのある虹彩。

 吸い込まれそうな瞳の色。


「僕のと、どっちが綺麗だった?」


 樹の瞳と負けず劣らない、おじさんの瞳の色。

 どっちが綺麗かなんて答えずに黙殺すると、樹はクスクスと笑った。


「じゃあ次は、彼の目を見なきゃね」


 そう言って、樹が私から顔を背ける。

 樹の視線は、入院病棟に続く通路に向かっていた。

 私もつられてそちらに左目を向ける。

 通路を行く人影が見えた。

 花束を抱えるその後ろ姿には見覚えがある。

 後ろ姿だけですぐに分かった。

 ――日向さんだ。