少女狂妄

 ルルルルルルルルル


「悪い」


 電話のベルに、おじさんはコンロの火を止める。

 初期設定のままの、無機質な着信音。

 おじさんはポケットから電話を取り出すと、そのまま自室の方へ行ってしまった。

 私は一人、台所に取り残される。

 お互いの部屋には入らない。

 おじさんのことを何も知らないし聞かないことと同じように、私たちの間で取り決めた約束事。

 玉ねぎに包丁を入れると、目にしみた。

 流れる涙に、自嘲する。

 私には、悪癖があった。

 包丁をまな板から持ち上げて、じっと見つめる。

 綺麗に研がれた包丁は、とても切れ味がいい。

 そっと刃先に指先を当てると、やわらかな指の腹に切っ先が牙を剥く。

 手首に傷なんてない。

 でも、悪癖がある。

 手首以外に傷がある。

 傷跡がある。