一糸まとわぬ姿で、床の上に横たわっている。

 体毛も薄く、乳房もまだ膨らみ始めたばかりの女の子。

 暗闇の中で浮かび上がる白い体を隠すに、滑らかな黒髪はまだ短すぎた。

 女の子の唇からもれるうめき声がもれて、まだ生きていることを示す。

 けれど、胸の上下もわずかで呼吸さえままならない。

 まるで人形のように、女の子は無造作に横たわっていた。


「いやぁ……」


 焦点の定まらない目が何かを見つけ、うめき声が拒絶を形作る。

 女の子のうつろな眼差しが見つめる先にあるのは、ひと振りのナイフ。

 闇に同化する黒服をまとった何者かが、冷たく光るそれを握り締めて女の子を見下ろしていた。

 つま先から指の先まで黒で統一された衣装だけでなく、黒い布で顔も覆っている。

 視界の確保のために布には隙間があったが、その先も闇に閉ざされ顔は見えない。

 ただ、双眸だけが艶めかしい。

 自由のきかない体で、女の子は黒装束から距離を取ろうとあがく。

 黒装束はうごめく様を冷ややかに見下ろしながら、床に爪が当たる音を耳にしただけだった。


「ああっ」


 女の子の白い腹の上に、黒装束が馬乗りになる。

 何事かをうめきながら抵抗をするが、女の子の心情に反して体はまったく動かない。

 ただうつろな目だけが、振り上げられたナイフに見開かれる。


「あああああああああああああ!」


 無慈悲にナイフは振り下ろされ、女の子の柔らかい肌を貫く。

 切っ先は肋骨の隙間を縫い、その内部へと忍び込む。

 いとも簡単に、ナイフは柄まで呑み込まれた。

 女の子の手足が痙攣を起したように跳ねあがり、黒装束の体が揺れる。

 それでもナイフを持つ手が離れる事はなく、より力が込められる。

 ナイフは体内に埋もれたまま、捻られた。

 女の子の喉がごぽりと鳴る。

 内臓から逆流した血が溢れ、よだれのように伝う。

 女の子は、自らの血で溺れていった。

 黒装束がナイフを引き抜くと、名残惜しそうに血と肉片がまとわりつく。

 ナイフが抜けた穴からは、まだ命ある心臓の動きに合わせて血が何度も噴き出す。

 脈打つように流れる血とともに、命も流れ出す。

 女の子の体から熱が失われていき、死が忍び寄る。

 黒装束はその流れを加速させるべく、再びナイフを振り上げた。

 女の子。

 とても愛らしいふっくりとした頬。

 まだ未発達の体。

 将来ある命。

 この子がなにをしたというのだろう。

 この子の何がそんなにも憎いというのだろう。

 何度も振り上げられ振り下ろされたナイフは、何度も体を刻んでいく。

 既に女の子の命が失われても構わず、何度も何度も繰り返す。

 暗闇の中、その音だけが響き渡っていた。