千佳ちゃんは刃物を振りかざすと、私の胸元を狙い、向かってきた。



「いやああああ!!!!!」


私が死ななきゃ、月夜は消えちゃう。
でも、なぜかこの子にだけは殺されたくないと思った。


「やめろ!千佳!」


突然の声に、千佳は動きを止め、声のする方を向いた。

この声は、間違えなく、佑斗のものだった。


「佑斗…」


なんでここに……


「やっぱり、お前だったんだな、千佳。」


「何のことよ……」


「岩本が言ってた。
“もうすぐ私は死ぬ”って。
それを聞いて、なぜかお前の顔が浮かんだんだ。」


「そんでもって、岩本の言う死ぬ日の朝にお前がいないってお前の母さんに聞いたからまさかと思って…そしたら本当にこんな場面に遭遇するなんて…な。」


「なんで…私の顔が浮かんだの?」


「何でって。」


そんなの、決まってる。
佑斗はどの子もきちんと見てて、しかも佑斗と千佳ちゃんは幼なじみなのに…


「お前が俺のこと好きだって気づいてたし、お前が岩本を見る目が異常だったから。」


「…何で知って…私…隠して…」


「ばーか。
俺ら何年の付き合いだと思ってんだよ。見てればすぐにわかる。」


「でも、この子がいる限り、佑斗は振り向いてくれない……!ならこんな子いなくなっちゃえばいい!!」


千佳ちゃんは本当に異常だ。
ただ、狂ってしまわなければ、すごくいい子だったはず。


私がいなくなることで、彼女が変わるとは思えない。


でも私には、大好きな彼が待っている。


「千佳ちゃん。
私を殺して気が済むならそうすればいい。…でもね、」