この世に世界は2つある。

人間が暮らす人間界と吸血鬼や妖精が暮らす魔界だ。

その境にあるのが、人間以外はいつでも出入りできるルート。

闇黒の魔。




「今日もさっむいねー」

「はっ…寒さなんて感じねー」


「こら、牙しまってください」

血筋の同じ人間にしか見えない吸血鬼。
なのに猫型で可愛い顔のヘルメンは、口の悪いメルヘンな紳士。

いわゆる多重鬼格。
人間で言う多重人格。




闇黒のルートを通ると、そこは吸血鬼が浮上していて、色はパステルカラーの世界。


「いいですか、キチンとしてくださいね」

「そーゆーのきらぁい」

「また、そんなことを言う」


25歳のうるさい大人。
奏斗。

スーツ姿に眼鏡をポッケに掛けて、キリッとした目。

お節介がくどい。

吸血鬼について回る浮上力のある執事。

普通の人間だ。




遠いルートをくぐり抜けるのには一苦労。

パステルの世界には空からが抜け道。


「もーっう!!せっかくー服直したのにぃーー!!!!」


飛ぶ力がない者は、落下するのみ。

浮上力のある者に掴まれば浮くのだが…。


「ちょっ!またか…」


人間世界に元々生存する巫女姿の中学生。
音色。

お転婆ってよく言われる。
大人が嫌いで、説教を嫌う。

だから奏斗は大っ嫌い。


「何故手を放すのですか!!!!!!!死にたいのですかぁ?」

「うるさーいよー。バーカ」

「空は危ないので、お仕置きは後ほど」



お姫様だっこをする執事の奏斗は鋭い目のまま視線を逸らした。


嫌いにはなれない。



そんな掟がある。