『世界』と『終』  ——僕がきみを殺したら——

情緒がぽっかり抜け落ちた僕の心には、いまや世界が居座っている。

心なんか通わせたわけじゃない。

思い知らされたからだ。自分のちっぽけさを。
徹底的に敗北したからだ。この出来損ないの死神に。


人を殺したいという欲求は、世界への望みにとって変わる。
生きていなくてもいい。彼女に目を開けてほしい、声が聞きたい。

その場所が、どこでもかまわない。天国でも地獄でも、あの世でもこの世でも。
ただその場所に、自分がいたいと思うだけだ。


死神としては落伍者だったかもしれないが、彼女は人の命を守った。たとえば、僕が殺したかもしれない人たちを。
世界に敗北した今、誰かを殺めたいという欲求は、ひどく無意味で卑小なものになりさがった。



死神たちは、世界にどんな裁きをくだすのだろう———

イメージは、中世の異端審問のそれに近い。
塔に監禁され、手枷をつけられ、罪人として裁きの場に引き出される———

フランスを救った少女は、結局、火刑にされたんだった。



僕にできることは、驚くほどなにもなかった。ためらいなく人を殺せたところで、なんになる?

世界は遠く、僕の指は虚しく空を掻く。

病室に通っては、枕元で拙い朗読を続けた。