『世界』と『終』  ——僕がきみを殺したら——

空気はますます透きとおり、日は短くなる。歩くと靴の下で、街路樹の枯れ葉がくしゃりと音をたてる。
風が吹くと、樹上ではだかの梢が、カタカタと乾いた骨のような音を打ち鳴らした。


世界の昏睡は、ふた月になろうとしている。

最初のうちは、学校、自宅、病院の周辺にしつこく張りついていたマスコミも、しだいに姿を消した。

未成年ということもあり、そこまで執拗ではなかったが、マスコミ人種は僕の周囲にもうろついた。
彼らからの接触には、文字通り閉口した。


眠りつづける少女のニュースの賞味期限は、切れたようだ。



僕は、あいかわらず病室に通っていた。
世界のベッドのかたわらで本を読み、ときに声に出して朗読した。

抑揚のつけかたも、滑舌も、読む速度も、褒められたものではないだろう。それでも、声に出して読む。


朗読するのは、人が死なない話を選んだ。自分のためではなく、世界のために。

聞こえているのかいないのかなど、分からない。

どこに届くことはなくとも、空気の振動として、彼女の鼓膜をふるわせているならそれでいい。