『世界』と『終』  ——僕がきみを殺したら——

事件以後、僕を取りまく世界も、ずいぶんとその様相を変えた。

西森世界が悲劇のヒロインなら、僕はさしずめヒーローだ。


周囲は、賞賛のまなざしをどしゃぶりのように僕に浴びせた。傘が欲しかった。

世界の容態が伝えられてから、それは哀感と激励のこぬか雨にとってかわる。

レインコートが欲しい、と見やる窓際には、西森の机が肩をすくめるようにおさまっている。

あるじ不在の机は、不在であることで、その存在を主張していた。

無人であること、その不自然さを視覚的に訴える机が教室にあるかぎり、この雨がやむことはなさそうだ。


無口で感情表現が下手だけれど、根は優しく思いやりのある少年。という自分像が一人歩きしているのを、ぼんやり見つめている。
そのうち、背中が見えなくなりそうだ。


僕は、僕で歩いてゆくしかない。


これまで、ほぼ家と学校の往復だった僕の生活に、病院が加わった。

世界の養父とも、じきに顔を合わせた。
角張った顎がいかめしい印象を与えるが、接してみると非常に寡黙な人物だった。

世界の養父母は、僕の見舞いについて、なにも言わなかった。

ただ、ベッドの脇のパイプ椅子は、いつからか二つから三つになった。