『世界』と『終』  ——僕がきみを殺したら——

伊藤女史は自首し、すべての罪を認めた。

動機については「ただ、そうしたかったから」と語っているそうだ。


「地味」「おとなしい」「ひかえめ」な司書教諭。
特に誰かと親しかったわけではないが、周囲と軋轢を起こしたともない。仕事ぶりは真面目そのもの。
そんな彼女の裏の顔に、周囲はただ戦慄し、マスコミは格好の話題にした。


その後の捜査で、彼女がコンテナ倉庫を借りていたことが判明した。

コンテナ内部の壁は、彼女の手で防音処理がほどこされていた。

壁の端から端まである作業台と、背の高いスチールラックがすえられていた。
そこに、さまざま工具類や材料が、ところせましと置かれていたという。

各種旋盤、ヒーター類、透明アクリルプレート、パイプ、被覆されたワイヤー、さまざまな化学薬品などなど・・・爆弾作りの証拠品が多数押収された。


結果として、伊藤女史が命を奪ったのは、一匹の犬だ。
動物保護団体は怒り狂うだろうが、法律上は器物損壊扱いにしかならない。

そして西森世界への、殺人未遂罪。


猟奇的な手口に、あまりにも薄い動機。
精神鑑定にかけられるのか否か、どの程度の量刑になるのか、現時点ではすべて不明だが、興味はなかった。


カウンターをはさんだ数分の会話で、彼女の瞳の奥をのぞいたことで、僕と伊藤女史の関係は終わっていた。