『世界』と『終』  ——僕がきみを殺したら——

そで口であごをぬぐう。

見上げる西森と、目が合った。

彼女のまなざしは、ただひとつのことを訴えていた。
「逃げてください」と。



俺は——・・・


なぜか、そのまなざしに応える言葉を探そうとしている。


西森———

心の中で、初めて彼女の名を呼んだ。


いま、幸せだ。

こんなにも濃密に死に触れている。
リミットがあるから、だからこそ永遠に近いくらいに凝縮された時間。

このありふれない瞬間を、自分以外の誰かとぴったりと共有している。


生と死とどちらに針が振れてもかまわない———まぎれもなく、幸福なのだから。