『世界』と『終』  ——僕がきみを殺したら——

ズボンのポケットから、鍵束を取り出す。

今この場で手に入るもので、用途に見あうのはこれくらいだ。

刃物があれば理想的だったが、僕に川上と同じ趣味はない。

切断することができないなら、こじあけるしかない。


粘度の高い接着剤を、手作業で均等にのばすのは不可能だ。
指先に力をこめ、粘着層のすき間とおぼしき箇所に、いちばん小さく薄い自転車の鍵をこじ入れる。

弾力のある膜を、突き破る手ごたえがつたわる。

できたすき間に、こんどはカギ山が多い自宅の鍵を差し入れる。
慎重に力を加えて、小刻みに前後に動かす。


ゆっくり。カタツムリが進むようにゆっくりと、接着面をはがしてゆく。

広がるすき間に左手の指をはさみながら、右手で鍵を操る。