『世界』と『終』  ——僕がきみを殺したら——

夕飯は、いつもと変わらない。父はたいてい帰りが遅いので、母、姉、僕の三人で食卓をかこむ。

ツナコロッケ、付け合わせのキャベツ、ワカメと麩のみそ汁、ひじきとレバーの煮物といったものが並ぶ。
手間ひまかけた料理をしっかり食べさせておけば、家族はうまくいくと、母親は信じている節がある。


母と姉が伝書鳩顔負けで、情報の交換を繰りひろげる。
僕は求められたら相づちを打つ役回りだ。


僕はごく普通の、いわゆるまっとうな家庭に属している。
僕以外は、命を重んじる正常な感覚を持つ人たちだ。


幼少期の虐待で人格にひびが入ったわけでも、事故で前頭葉を損傷したわけでもない。
僕の精神に死が棲みついているのは、たぶん誰のせいでもない。

ただそう生まれついた。



母と姉のにぎやかなおしゃべりが、意味をもたない雑音として耳を通り抜けてゆく。


僕は無言ではしを動かした。