「シン君…怒ってるの?」

不安に思いながら聞いてみる

「あっ!ごめん 音ちゃん 嫌な思いさせちゃったね!」

「ううん 違うけど…どうしたの?」

「…これから毎日 渡辺みたいに声掛けてくる奴が後を絶たないと思ったら

ちょっと憂鬱になったというか…心配になっただけ」


今日は昨日のデートの事を考えていて『心ここに非ず』なフワフワな状態で午前中を過ごしていた

その為か?人の視線に全く気が付かなかった

改めて周りを見渡せば…

いつもとは明らかに違う強い視線を感じる

男性からは好意的な眼差しを向けられている

それとは対照的に女性からは冷たい射る様な視線を向けられて気圧される

それはどちらとも音が今まで経験したことのないものだった


「…音ちゃん」

目の前でシン君に手を振られて、やっとシン君の呼び掛けに反応する音

「どうしたの?…大丈夫?」

「…ごめんなさい 何の話しでしたか?」

「講義の後の予定はどうなってるの?」

「えっと…今日はサークルで集まりがあるの」

「読み聞かせの会だったよね?」

「はい…介護施設のホームや保育園とかに行って絵本なんかの読み聞かせや自作の紙芝居なんかもしてるの」

「わかった…また連絡入れるね」


教育学部と工学部は少し離れた場所にある

その工学部の棟から会いに来てくれたシン君は午後の講義のために急いで学食を出て行った