「うん、わかった。でも着替えがないから……」
「そーだなぁ。俺の着物のならあるよ。わりと動きやすいやつ。でも…男物だしな」
「わたしはそれでもいいよ?工夫したら動けるだろうから」
「そういう意味だけじゃないんだけど…」
まぁ、いっかと夕凪は部屋のタンスから服一式を取り出す。青メインの確かに動きやすそうな着物である。ひょいと服を半ば押し付けるように柊に渡すと、
「着替えが終わったら外に来いよ。村を案内してやる」
バタンと音をたて部屋から出て行った。
柊は夕凪が出て行ったドアをしばらく見つめると、もそもそと布団を這い出て着替えを始めた。
………宇久、探してるかなぁ…
妖狐って言わない方が……いいかな
宇久に悪いと思いながらも、狐の村を見たらすぐに行くから!と自分をなだめる。
着物を着ると、ふわっとレモングラスの匂いに包まれた。
「………」
………いい匂いと思ったことは内緒だ。
なんとかなると思っていた着物は、存外ダブダブ過ぎてやはり動きにくい。ズボンに似た着物もずり落ちる。
「そこのあんた」
ビクッと肩を震わせ声をした方向を向くと、こげ茶色の髪を後ろで三つ編みにして垂らす女がいた。ドアに背を預け腕を組み、澄ました表情でこちらを一瞥するとすぐにそっぽを向き目を伏せる。
大人の色香が溢れ出ていて、大きく開いた胸元からは色気が感じられる。
突然のことで驚きながらも、女性は自分に話しかけているのだ。知り合いではないものの、返事をするのがマナーというもの。
「は、はい…」
「………あんたも狐なら変幻くらいできるでしょ。そしたら服もサイズが合う」
確かにその通りだ。身体を縮めたりするだけでは変幻とはいわない。それにともなって着ている服も身体に合わせて変幻するのだ。
しかしなぜこの女性は自分が困っていると分かったのだろうか。
それに答えるかのように女性は視線を上げ柊を捉える。
「夕凪が遅いから心配してる。早く行った方がいいんじゃない」
そう言い颯爽と開けっ放しの部屋から出ていった。
「あの、ありがとうございます!」
後ろ姿に礼を言い頭を下げると、いつの間にか女性の姿は見えなくなっていた。

