「口先だけってのはお前だろ」
紺色の髪が視界に入り、男の腕をねじりあげる少年の横顔が見えた。
強い意思を感じられる赤の瞳。まだ幼さが残るが、凛々しい顔つき。
年は柊と同じくらいだろう、成人男性を捻りあげるほどの力は一体どこから出てくるのだろうか。左手で腕を抑えたまま、右手で男の腹に拳をぶつける。バンッという音と共に男は崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
少年は男を気絶させると縄で縛り上げる。
「こいつは女の狐を売り飛ばす悪商人さ。なんでも珍しいからって、よく売れるんだと」
縄を木にくくりつけ、パッパと両手で汚れを落とす。
「あんたも挑発なんてするなよ。俺がいなきゃ、今頃身ぐるみはがれ………」
少年は振り向き柊の姿を捉えると、一瞬固まり話をやめて早足に近づいてきた。
「え…」
強い二の腕を両方から掴まれ、動けなくなる。
視線を合わせると緊張した面持ちで顔を寄せられる。
「あんた……何だ!?」
「え、何って……狐だけど」
「いや、違う。あんたは狐だけど何か違う。何者だ!」
強く揺さぶられ緊張の糸がほぐれたばかりの柊には反動が強すぎた。足からカクンと落ちていき、意識が朦朧としてきた。
「おい!どうした、大丈夫か!?あー、こう言う時ってどうすれば………」
少年の声が微かに聞こえたのを最後に、柊は意識を失った。