記憶の底から妖狐のことについて引っ張っていると、青年に呼びかけられているのに気づき考えていたことを頭に押し込める。そして、柊の斜め下からの声にずっと気になっていたことを口にした。
「君、いつまで膝まづいているの」
「柊様の前では、いかなる時も」
真剣に言っている青年に柊は若干顔を引きつらせた。
「いくら妖狐だからってそんな態度はいいよ。ただ珍しいだけだろう」
「………」
「いいから座って」
青年は不本意な表情をしながらも立ち上り、柊においでと言われ横に腰をかけた。
「あの娘達は何もわかっておりません。もちろん、霧砡家も」
すっかり警戒心を解いた柊が奥の戸棚からお菓子を取り出していると、微かに声が聞こえた気がした。青年を見ると目が合いニコリと微笑みかけられる。柊も愛想笑いをしたのだか、上手く笑えているだろうか。
パタパタとお菓子とお茶を用意し、青年と自分との間にお盆を置く。客なんて初めてだったため、これでよいのかと気にはなるところではあるが。
正座をして頭を下げてきた青年は、
「柊様、そのようなことはお辞めになって下さい。僕は貴女様の下僕なのですから」
と淡々と言い放つ。
突然の爆弾発言に手が滑り、柊の手元からお茶が盛大にこぼれ落ちた。
「大丈夫ですか?柊様」
そんなことは露しらず、慌ててどこからか手ぬぐいを取り出しお茶を拭いて行く青年。柊はその様子をワラワラと落ち着きがないように眺めてることしかできなかった。

