封船屋

その時、足下で何かが動く気配を感じて、小さな悲鳴をあげてしまった。

見るとそこには一匹の黒い犬がいた。それほど大きくはない。
見た感じは柴犬の子犬を黒く染めたようだが、それより長い毛と、ふさふさしたしっぽがあった。
耳が片方だけ折れている。

「あら、驚かせてしまったわね。アントおいで。」

アントと呼ばれた黒い犬は、しっぽをちぎれそうなくらい振りながら、一生懸命走り、彼女の膝に飛び乗った。
最も体が小さい分、足も短いので、早くは走れていなかった。

「突然ごめんなさいね。犬は大丈夫?」

「あ…動物は好きです!!虫以外なら。」


「それならよかったわ。」
アントと呼ばれた犬の頭を撫でながら彼女は言った。


「この子は、もう今年で3歳になるのに、ちっとも大きくならないのよ。
それに蟻みたいに真っ黒でしょ。それで、アントって付けたのよ。」


「可愛い名前ですね。」

小さく真っ黒なその犬に、ぴったりな名前だと思う。