「どうしたの?赤崎さん」



「いやぁぁ…いやだぁ…
きっ、消えたくない…消えたくない…」



花香は浅く早い呼吸を繰り返しながら



ボロボロと涙を流しつつ、



シニガミに助けを乞うように



呟く。



「どうしたの?赤崎さん!」



その、暁美のしっかりした声で、



花香は虚ろな目を暁美に向けた。



「園田さん…私…私…」



綾介は何があったのか、



察することが出来た。



…まさか、まさか赤崎…



携帯を…



「私…い、い…」



「落ち着いて!息を吸って!」



暁美が背中をさする。



「私…家に…携帯を…忘れたのっ!
家に、家に!うあぁぁぁぁあ!!!
消えたくないっ!!いやだぁぁあ!」



『忘れた』



この言葉で、全員が



この先に何があるかを、察した。



この言葉が表す意味。



赤崎 花香はメールを送れず、



存在が消える。



残酷なまでの十分が、



いつもよりゆっくりと進んで行く。



まだ、五分残っている。



赤崎が…消える?



そんな、嘘だろ、まさか!



綾介の中の純粋な恋心は、



綾介の心を蛇のように締め付ける。



嫌だ、嫌だ!



死なないでほしいのに!



久琉斗が時たま、



悲し気な表情で綾介の背を見つめた。



久琉斗は、



綾介が誰が好きかを知っている。



綾介の背中が震えている。



三十秒、



教室内はシンとしたままで、



花香の泣き声だけが木霊する。



二十秒。



綾介の震えが激しくなった。



十秒。



花香はただ泣き続ける。



九…



八…



七…



六…



五…



四…



三_____ガタッ。



誰かが立ち上がる。



二、



「赤崎、俺…」



一__________



「赤崎が好きだったのに!!」



零。



花香がフッと消えた。



綾介の悲しい声の余韻が



散りばめられるとともに、



全員が綾介を意外そうに見る。



でも、誰もからかったりはしない。



綾介は黙って席に座って、



涙を一筋、流した。





♫ピロロロロン♫





二十五人の携帯が鳴る。