私は群馬のとあるスキー場に来ていた。

ゲレンデから外れた雪山には、

うさぎの足跡が点々とついていた。

たぶん新しいものだと思った。

白うさぎがいるんだわ。

辺りはシーンと静まり返っていた。

時々吹く風に粉雪が耀いて別世界のようだ。

私は目立たないように上から下まで白いウエアを着て、

頭にも白いニット帽を被っていた。

一つだけ黒々としたカメラだけが、異様に目立った。

サクッ、サクッ、と新雪の中をそっと歩いた。

「ん?いたわ、あそこ。」小声で呟いた。

私が吐く息は白く、きらきらと空気中を漂って消えた。

ファインダーを覗いてその白うさぎを追った。

後ろ姿のお尻が丸くて可愛らしかった。

うさぎは一瞬動きを止め、回りを警戒した。

白い顔に赤い眼の横顔を狙った。

パシャリ!

カメラのシャッター音に気づいたようだ。

足早に行ってしまった。

うさぎの姿はもうなかった。

「さっ、私もロッジに戻って、熱い温泉に入ろう。体が冷えたわ。」