「あ…」
ボールが二戸の手に渡る。
素早く反転して、ドリブル。
何人も、抜いていく。
はやい。
あっという間にゴールが狙える付近まで近づいてしまった。
大きくなる歓声。
二戸の、ゆれる髪。
流れるような動きで、二戸はボールを持ちかえるとシュートポーズに入る。
その瞬間、息を忘れた。
ボールはゆっくりと弧を描いて、落ちていく。
ネットに触れる乾いた接触音が聞こえ、その次の瞬間には大きな歓声とともに笛の音が響いた。
「スリーポイント!!」
「嘘だろ?信じられねえ!!」
「相手は県大会常連校だぞ?」
すごい。
なんなんだ、あいつは…
俺は興奮で思わず拳を握っていたことに気づく。
眼下の二戸の姿を探すと、奴は仲間に囲まれていた。
すると、ふとこちらを見上げる。
そして、にやりと笑った。
いつか俺がしたかのように。
まるでどうだ?とでも言っているように。
「……っ」
不覚にもどきり、としてしまった。
なんて恵まれた男だ。
クラスの、学校のみんなにも好かれ、部活でも人望があり、バスケの神様までお前の味方だ。
お前はきらきらしたものに取り巻かれている。
全く持って世界は不平等だ。
畜生。
くやしいが、今日の試合を俺は忘れない。
結局試合はこちらが優勢のまま勝利した。
県大会優勝。
偉業だ。
誰もが二戸を見ていた。
もちろん俺も。
本当に、陽のもとが似合う男だ。


