「…行ってくる」


そう言うと、母さんはまだ寝間着のままだったが玄関までついてきた。

いつもは決してそんなことはしないが、心配そうな表情だ。




俺の方が気を使ってしまう。


「大丈夫だって、もう試験は終わってんだし。なるようになるだけだから。もう滑り止めは受かってるし」

「そ、そうよね…」


それでも落ち着かない母さんに「行ってきます」と言い、外に出る。



空は曇天だった。

雨は降らないと天気予報では言っていたが、いつ降ってもおかしくないような空模様だ。


いつもと変わらない高校までの道を歩く。

思えばこの道を使うのもあと少しだ。




結果発表は、学校で見ようということになっている。

同じ大学を受けた数人のうちの一人が「一人で見たくない」とごねたからだった。
正直俺はひとりでよかったが、さっきの母さんの顔を思い出すと、もし落ちたときに最初に報告する相手が母さんだとやっぱり、嫌だった。



発表の時間まではまだ余裕があったので、自販機でコーラを買って自分の教室に向かった。


1、2年はまだ授業があるのでその講義の声が聞こえたが、誰もいない教室はがらんとしていて冷えきっていた。



上履きの音が響く。





あと数日後には卒業式だ。


もうここで、他愛のない話をして笑ったり、授業を受けることもない。





「……二戸」




お前と過ごす時間も、もう。






数日前まで公式や英単語のほうが俺にとって重要だったせいか、それがなくなった今、改めて自分の気持ちを思い知る。













キーンコーン…


予鈴の音に、びくりとする。


授業が終わった合図だ。
しだいにガヤガヤと騒がしくなる。





こんなところでセンチメンタルを気取ってどうする…

今、大事なのは俺の合否だろう。



ため息をついて、コーラをに飲み干すと、俺は情報演習室に向かった。