サイン、シータ、ルート



「昨日のさ、あいつやばかったよな。見た?俺まじ腹痛かった」



円周率、絶対値、因数、素数



「やっぱなーああいうくだんないのがすきだわ。すっげえしょーもねえけど」



エックス イコール ワイ



「お前は?なあ。なあなあ、聞いてる?」



「っっっるせぇ…!」



俺は開いていた数学の参考書をばちんと閉じて、机に顎を乗せていた奴の頭上から真っ直ぐに落とした。



思った通り頭を抱えて悶絶している。



「ってぇ……お前な、角は、ないだろ」

「受験生の勉強を邪魔するよりは罪じゃない」





11月。


受験も勉強もとうとう追い込みの季節になってくる。


俺、奥平風志(おくひら かざし)18歳。


狙うは、某有名大学、工学部。





「風志……お前ってやつは」


涙目で目の前の男、二戸航平(にと こうへい)は言った。




「すいませんねぇ、どーせ受験生じゃない俺は暇人でーすよ」

「喧嘩売ってんのか、コラ」




二戸はこのへらへらした感じとは裏腹に、バスケが上手い。

俺達の高校は今年、県大会で優勝してインターハイまで進んだ。



優勝したときの試合はすごかった。


いつにも増して、二戸はきれていて、もちろんどの選手も強いのだが、二戸のそれは会場を釘ずけにした。


もともと器用なバスケをする男だったが、その日は放つボールのほとんどが奴の読み通りに動き、きれいにボールがゴールを抜けていった。


前から目をかけられていたが、そのときの試合がきっかけで二戸の知名度は県内で特に上がった。


なので近隣のバスケの強い大学に、9月には推薦が決まっていた。


「俺もこんなにサクっと決まるとは思ってなかったんだって。つーかバスケやりすぎて一般受験したらまともな大学行けなかったわ」

「お前、今まで何してたんだ・・・?」



半ばあきれてそう言うと当たり前のように「バスケだろ」と言って二戸はからからと笑った。