君に、メリークリスマス





路地裏に入り、赤レンガの、その風貌が…見えて来ると。





私は…



足を止めた。






イーゼルに乗った黒板に…


『本日貸し切り』の文字。






「……………。」


そんな日に、待っているだなんて…


よく言えたものだ。


どう考えたって…


招かざる客だろう。





ぎゅっとこぶしを握って…



店の前まで、歩いて来ると。










私は…




愕然とした。





今までなかったはずの、クリスマスリースが……


ドアの前、私と同じ目線の高さに…、





飾ってあったから。










クリスマスは嫌いだと…、言ったはずなのに。













「……バカじゃない…、私……。」




何を…期待などしていたのか、


ここが、癒しの場だと…信じていたのか?





















空からは……



ちらちらと、


雪が……舞い降りてきた。










「……ゆ…き……?」



広げた掌に…、じわりと冷たさが…伝わる。







思わず…



空を、見上げた。






飛び込んできたのは……


欅の木に施された…イルミネーションと。





あの日から…クリスマスには降らなくなった、


真っ白な…雪の粒。









「………。リョータ…?」




耳に届く…


クリスマスソング。


人々が…雪を踏む音。














まるで…




あの日と、一緒だった。









忘れるな、と……




言われてるようだった。